第30話 「少年教師追跡編」<ネギ> 「……くぅっ………いたっ……つつ……」 這い進むたびに、通路で擦った足の擦り傷が激しい痛みを訴える。 今にも落ちてきた壁に押し潰されてしまいそうな気分になる上下に酷く狭い通路を、何度も頭を擦りながら、僕は必死に這い進んでいた。 明かりは、ハルナさんから受け取った懐中電灯のものだけ。 もしもこの懐中電灯の明かりが消えてしまったら、僕はこの狭くて身動きもとれないような場所に、一人取り残されてしまう。 まるで、棺桶に閉じこめられた死者みたいに。 そんな不吉な想像が、僕の背中を何度も這い上がってくきて、そのたびに僕は小さく首を振って不安を振り払わなければならなかった。 まるで、何時間もこの狭い通路を這い進んでいるような気がする。 『─────………ネギ先生っ……───今の位置………───ですか…───…?』 無線機から途切れ途切れに聞こえてきた宮崎さんの声に、僕は周囲を見回した。 こんな狭い通路なのに左右に文庫本の並ぶ本棚があって、上の壁には並べられた本棚の中身を示す案内板が張り付けられている。 「……文芸…の………0078681………です。宮崎さん、聞こえますか……?」 懐中電灯で照らした案内板の文字を、手にした無線機に向けて読み上げる。 宮崎さんからの答えが返ってきたのは、しばらくの後だった。 『──ネギ先生っ、あと、もう少し…──から…。────天井……四角い石扉が────、……上に、押し上げて────……さい』 雑音混じりでちゃんと聞こえないような言葉でも、長い時間を閉所に押し込められて疲れきっていた僕には、宮崎さんの言葉は救いだった。 「了解しました、ありがとうございますっ!」 短く答えだけを返して僕は無線機を胸ポケットに戻す。 できるのならもっとたくさんの言葉を返したいけれど、電池が切れたりしないように、あまり使うわけにもいかなかった。 目を閉じて、宮崎さんにもう一度感謝の言葉を呟く。 そして、僕は再び這い進み始めた。 懐中電灯の明かりを天井に向けながら、ほんの僅かな違いも見逃さないように、その平板の灰色の壁を見つめて、少しづつ、少しづつ前に。 肘と膝で床を這い、体を引きずるようにして前に進んでいく。 そうして、また、長い時間が過ぎてから────。 「…………あった」 僕は、そこに辿り着いた。 天井に張り付いた、1メートル四方ほどの切れ目。 焦らずに罠を視線だけで探してから、その真下まで這い進む。 「……よし、行くぞ────。…せぇの……っ!」 懐中電灯を傍らに置いて両手を天井に当て、ありったけの力を振り絞って真上に持ち上げる。 長い時間ロクに伸ばすことの出来なかった僕の腕は、驚くくらい勢いよく真上へと伸びて、天井を閉ざしていた四角い石の扉を持ち上げた。 「やった……出られたっ!」 狭い通路特有の籠もった空気の中へ、微かにホコリの匂いの混じった冷たい空気が入り込んでくる。 僕は、喜ぶ気持ちを抑えながら、落ち着いて持ち上げていた石の天井を横へとずらして置いて、天井に出来た四角い穴から自分の体を引きずり出した。 持ち上げた懐中電灯で、周囲をぐるりと照らす。 そこは、冷たい石で作られた巨大な大広間だった。 左右の壁には、この場所が図書館の中であること主張するように巨大な本棚が並んでいる。 そして、広間の奥では古代遺跡にしか見えない巨大な石造りの台座があり、その上には重厚な造りの、人が大きすぎるには大きすぎる石の扉があった。 その扉の前には、甲冑を着込んだ騎士を模した大きい石像が立っていて、それぞれ手にした武器を床に下ろし、扉を守っている。 「…………あれは……?」 武器を手にした騎士達の石像の、その間に挟まれて、僕が持つ懐中電灯の光に照らされて、黒く光沢を放つ不思議な材質で出来た台座があった。 台座に飾られてるように置かれているのは、大きな一冊の本。 開かれたその本は、古典ギリシア語で書かれている……その内容までは僕には理解できないけれど、その答えは台座に書かれていた。 『メルキセデクの書』 メルキセデクは、遙か古代に生きた大祭司とも、天使とも言われている伝説上の人物。 もしもその人と関わりのある魔法書だとしたら、それは、僕が魔法学校で学んだ技術として体系づけられた魔法よりさらに古い系譜の魔法についてのもの。 “奇跡”と呼ばれるような力について書かれたものだということになる。 それはもう、ただの本なんかじゃない。 最高の魔法書と呼ばれるもの。 「………信じられない……」 呟いて、ふと明日菜さんの書き置きを思い出す。 “とある本を探しに行ってきます” 「もしかして、この本を探しに、明日菜さん達は……? でも、どうして……」 魔法書の飾られた台座を見つめたまま、ほとんど無意識に足を進めていく。 あの台座に置かれた本には、絶大な力がある。 本が纏っている魔力が、決してあの本が贋作ではないことを示している。 それは、悪魔すら容易く踏破する強大な魔力となるし、人を神への領域へと登りつめさせるための最高の叡智をも与えるほどのもの。 あの本があれば。 その時、不意に背筋に寒気が走って、僕は足を止めた。 そして、初めて恐怖に体を硬直させた。 台座の手前には、まるで奈落の底まで続いているような、深い縦穴がある。 なにもかも呑み込んでしまうような。 低く喉を鳴らして、僕は背広のポケットから無線機を取り出した。 視線を正面から外さないように気を付けながら、通話のボタンを押す。 「………今、巨大な広間に出ました。……宮崎さん、やっぱり、皆さんはここで……?」 答えは思ったよりずっと早く。 だけど、無線機からは返ってこなかった。 『フォフォフォ…………その通りじゃ、少年』 まるで好々爺とした年寄りのような軽快な口調とは裏腹に、低く響く酷く重い、とても耳障りな声が、大広間の中へと響き渡る。 『お主の探している者達は、先ほどお主の目の前にある穴の底へと呑み込まれたぞい……』 その声は、台座の脇に立っている二体の石像から交互に聞こえていた。 騎士の甲冑をも模したその二体の石像は、それぞれ手にした武器を身構えて、僕の方へと向き直ってくる。 全て石で出来ていたはずの石像の、甲冑の隙間から見える関節部分が柔らかく動いて、交叉するように台座の前に立ち塞がった。 本の載せられた台座が、僕の視界から隠される。 だけど、僕にはもう、魔法の書物の事なんてどうでも良かった。 「…………そんな、それじゃ、皆さんは……?」 足元から力が抜けていくような感覚に、体が震える。 僕の目の前にある深い縦穴。 懐中電灯で照らしても底がまるで見えない、そんな深さの穴に、一般人の明日菜さんや生徒さん達が落ちたりしたら……。 『フォフォフォ……その穴に落ちても、死ぬことはないぞい』 『……もっとも、無事に地上に戻ることが出来るかは、保証できないがのぅ?』 二体のゴーレムが交互に言葉を紡ぐ。 鋼鉄の鈍い輝きを放ち始めた兜の隙間から、紅く光る単眼が僕を見下ろしていた。 全身が緊張で固まるのが分かる。 それはまるで、僕の心を見透かすような、冷酷な視線だった。 「皆さんは……皆さんは、本当に…………?」 目の前に現れたゴーレムの言葉に縋ってしまっている自分に気付いていても、僕は言葉を止めることは出来なかった。 『儂はメルキセデクの書の守護者じゃ。お主が書へ手を出さぬのならばウソは言わんぞい』 『もっとも、お主がこの書物に手を出すというのなら…………』 「いいえ! 生徒さん達が無事なら、そんな本なんて要りません!!」 僕は大きな声で返事を返した。 明日菜さんや、生徒の皆さんが無事だって聞かされただけで、崩れかけていた僕の心が蘇ってきたような気がして、自然と顔に笑みが浮かんでしまう。 聖者と呼ばれたメルキセデクの書の守護者なら、言葉の通り嘘はつかないはず。 「……生徒さん達のところまで行くには、この穴に落ちれば良いんですね?」 確認すると、ゴーレムさんはゆっくりと頷いた。 『その通りじゃ………だが』 『……さっき言った通り、お主が地上へ戻れるかどうかは保証しないぞい?』 その言葉に、僕の口から笑みがこぼれる。 「ゴーレムさんも、いい人なんですね」 心配してくれてるんだと思う。 この図書館に棲んでいる人は、本当はみんな優しいのかも知れない。 ふと思い出して聞いてみる。 「あの………もしかして、あなた達が、鬼帝さん……なんですか?」 おそるおそる聞いてみる。 ちょっとイメージが違うかな、と僕が思った通りに、ゴーレムは首を捻った。 『鬼帝? なんじゃそれは?』 やっぱり違うよね。 あの怪物さんが恐れるほどのソレが、ゴーレム程度の存在の筈がない。 「いえ、いいんです…………それじゃ、僕、行きますから!」 それが分かれば、僕がここで足を止めている理由はない。 この穴から、もっと地下深くに生徒の皆さんが落ちてしまったとしたら……怪物さんが言っていた、あの『恐ろしい怪物』に見付かっちゃうかも知れない。 急いでそのことを教えて、皆さんのことを守らないと……。 きっと、今夜の間さえ守ってあげられれば、後はタカミチ達が助けに来てくれる。 手の中に握ったままだった、ただ雑音だけを返してくる無線機を口に当てて通話ホタンを押す。 「……こちら、ネギです。生徒さん達は、広間にあった落とし穴の下にいるみたいですから、これから僕も降りてみます。必ず戻ってきますから、心配しないでくたさい!」 ちゃんと僕の言葉が届いていることを祈ってから、通信機を閉じる。 そして、僕は落とし穴へと身を躍らせた。 風が頬をすり抜けていく。 巨大な縦穴を何の障害物もなくただ落ちているというのに、不思議と僕の体をすり抜けていく風の勢いは優しかった。 きっとこれが、あのゴーレムが言っていた“穴に落ちても死なない理由”。 魔法の力で、この縦穴の中だけ、モノが落ちていくスピードを遅くしているんだと思う。 これなら、この穴に落ちたという生徒の皆さんは、間違いなく大丈夫。 あとは、この先が何処に繋がってるかだけど……。 やがて、穴の底に微かな淡い光が見えてくる。 「この光は……世界樹の………!」 何度も目にした、世界樹の根が放つ優しい光。 それは、地底図書館に張り巡らされた世界樹の根が見せるものと全く同じだった。 だとしたら、この先には……。 縦穴を抜けて、僕は広い空間へと放り出される 夜だというのに真昼のような優しい光を放っている、天井から地面へとかけて張り巡らされた無数の世界樹の根。 周囲を覆っている巨大な壁は、その全てが本棚で出来ていて、ところどころ欠けている本棚の隙間からは、激しい勢いで滝が流れ出して、川の流れを作っている。 端に建てられた朽ちかけた遺跡のような建物は、深い色の緑に囲まれて、まるで聖域のような荘厳さを放っている。 そして、その中央には、無数の滝の流れが集まってできた、大きな地底湖があって。 「うわあああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁッッ!!!?」 そして、地底湖の中心に、巨大な“それ”は浮かんでいた。 地底湖の全てを覆い尽くすほどの巨体には、数千を越えるような無数の触手。 視界を覆い尽くさんばかりに存在するその無数の触手は、それぞれが意志を持つかのように妖しく蠢き、身をくねらせ、まるで奇怪なダンスを踊っているように見える。 触手の底に深く沈んだ肉の中からは、金色のに輝く無数の目があった。 それらは一つ一つが僕自身よりも大きいのに、まるで人間のように瞳孔があって、人間のように瞬いて、そして一斉に僕を見つめる。 その無数の瞳の中に、恐怖に囚われて顔を歪める僕の顔が、一斉に映った。 これが……ッ! これが……ッッ!! これが、鬼帝様………ッ!! 怪物とか悪魔とかそんな次元じゃない、もっと遙かに恐ろしいモノ。 視界を覆い尽くす巨大なソレは、ただ“そこに居る”というだけで、それを目にしている僕の正気を刈り取ろうとしていた。 しかも、僕の体は、まっすぐに。 その巨大な触手の海へと落ちている最中で。 しゅるりしゅるりと伸びた触手が、僕の体を優しく受け止める。 「いっ、いーーーやぁぁぁぁぁーーーーーーーッッ!!」 手足に絡みついてくる触手の、その裏側にビッシリと張り付いた無数の吸盤から伝わる、痒いような、肌をくすぐられるような感触に僕は悲鳴を上げた。 じたばたと手足を動かして逃れようとするけれど、まるで海のように無数にある触手は次々と伸びてきて、どんなに振り払っても逃れることが出来ない。 あっさりと体中を無数の触手に拘束されて、僕はぶらりと吊り上げられる。 「……き…鬼帝さまっ…!」 僕の言葉に応えるように、足元に広がる触手の海の底から金色の瞳が僕を見た。 大きな瞳は、まるで嗤うように斜めに歪み、細められている。 「お願いです、やめてください……っ!! 僕は、ここに落ちてきたはずの生徒さん達を帰してもらいに来ただけで………ひいいいいいいいいいゃぁぁぁぁぁぁっ!!?」 一生懸命にお願いしようとしても、最後まで願いを口にすることも許されず、僕は足だけを触手に絡みつかれたまま空中をグルングルンと振り回された。 ああ、やっぱり、僕のような矮小の人間の言葉なんて鬼帝様には通じないんだ……! 視界がグルグルと回り、何も分からなくなる。 それにも飽きちゃったのか、いつしか鬼帝様は僕を振り回すのを止めて、僕の足を触手で掴んだまま、宙に吊り下げたまま動きを止めた。 頭を下に吊り下げられているせいか、意識が朦朧としてくる。 だけど、朦朧としていた意識は、急に僕の目の前に現れたモノを見て即座に覚醒した。 「ア……アスナさんっ!!」 僕の目の前には、明日菜さんがいた。 上下逆さまに見えるのは、僕が足を上にして吊り上げられているからだろう。 いつもの制服姿の明日菜さんが、肩を怒らせ、腕組みをしたまま僕を見ている。 鬼帝様の上に仁王立ちで。 「ええええええええええええっっっ!? アスナさん、なんでそんな普通にしてるんですか!?」 鬼帝様の上に仁王立ちしてるのに、なんでむしろ堂々としてるんだろう。 あとなんで怒ってるんですか? 「ホーッホーッホッホッ、それはアナタが子供で、私が子供じゃないからでしょう〜?」 なんだか変な高笑いを上げてから、明日菜さんが僕を指差す。 「つ・ま・り、今、この地底図書館にいる子供は、ただ一人……つまり、ア・ナ・タ」 ええええええええっ、そうだったんですかぁぁぁぁ!!? それじゃ、僕が皆さんを追っかけて地底図書館まで降りてきた意味って一体……。 でも、明日菜さんが無事なら、それでも……。 安堵に息を吐く。 鬼帝様は怖かったけど、皆さんが無事なら、それがなにより…… 「あ、それから、鬼帝様が今からネギのこといろんな意味で食べちゃうから」 「……ちょっ!!?」 なんだかやたらイイ笑顔で僕に手を振る明日菜さんの周りから、ぞわぞわぞわぞわと無数の触手が蠢いてきて、ゆっくりと僕に近付いてくる。 「じょっ、冗談ですよね!? 冗談だって言って下さいよ…………ひゃああっっ!?」 たくさんの、たくさんの触手が、空中に吊り下げられたままバタバタと手を振ることしかできない僕へと伸びてきて。 吊り下げられたまま下を見ると、鬼帝様の数千モノ触手が蠢く巨大な巨大な体と、その中に産み出された無数の金色の瞳が僕を見ていた。 その瞳はやっぱり、僕を嗤っているように細く歪められていて。 「いっ、いいいいいやあああああああああああああああああああああああああああああああああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっっっっ!!?」 <明日菜> 「…………い……いやぁぁ……やめて…………やめてください………ひっ……服の中に………そ、そんな……あ、あああっ……」 なんというか、実に形容しがたい声を上げて身悶えるネギ。 その、苦しげというかなんとも微妙な寝顔を、ぐるりと取り囲むように全員で見下ろして、私達は起こすタイミングを失ったまま困り果てていた。 あのツイスターゲームに失敗してから穴に落とされてから翌日。 何故か私達と一緒にこの地底図書館に落っこちてきていたネギを起こそうとして、私の代わりにネギを起こしたいというまきちゃんの希望を聞いてしまったのが間違いだった。 起こす寸前に聞こえたネギの寝言に、まきちゃんが凍った。 「どどどどど、どうしよう、アスナーっ!?」 顔を真っ赤にして、手をワタワタと左右に振り回しながらまきちゃんが私に助けを求めて。 なんだなんだとみんなが集まってきて、今に至るのである。 「ひゃぁぁっ………ああっ……パンツは…………パンツだけは………ひ……ひいい〜…ん……… いつも身に着けている杖を枕代わりに抱いたまま、ネギの寝言は続く。 額に汗を浮かべて、なんだか苦しげというか悩ましげというか、身悶える姿が……なんとも形容しがたい空気を作り出していて、ちょっと近寄りがたい。 さ、さすがにいい加減に起こさないと不味いよね……? 「わーわーわー、なんや凄いことになっとるなー。ネギ君、大人やわー……」 このかは、口元に手を当てて頬を少し赤くしながらも、何故か感心したような声を漏らした。 いやいや、大人とかそういう話じゃないから、絶対。 「あややや……なんかこういうの聞くのって恥ずかしいアル〜」 「ムム、人の寝言を聞いてしまうのは、良くないことだと思うでござる……」 古菲は照れながらもしっかり目を輝かせて聞いちゃってるし。 楓ちゃんさえ、良識的なことを言ってる割にはまったくもって止めようとしてない。 「……あの、さすがに悪趣味というか……これはちょっと、聞いてはいけないことのような……」 夕映ちゃんが顔を真っ赤にしてネギの表情を見ないように視線を伏せている、胸の前で組み合わせている手の中で、指先をもにょもにょと落ち着かない様子で動かしている。 それでも結局ネギを起こしにいけないのは、なんか恥ずかしいからだろう。 うん、私も恥ずかしい。 ……っていうか、なんちゅー夢を見てるんだコイツは。 とりあえず、私はネギを起こそうと肩を掴んでから、軽く揺すった。 なかか起きずに、ネギの口から寝言の続きが漏れる。 「……あっ……ひゃぁぁん………こ……これ以上は………いっ……いやぁぁぁぁ…………やっ、……やめてぇ……ア…アスナさ〜〜ん………………」 いやなにヒトを変な夢に登場させてんのよ!? 「……ア、アスナ……?」 「そ、そ〜やったか〜………ウチの知らん間に、ネギ君と…………」 「………お、驚いたアル……まさか、アスナが……」 「さすがに、数えで9歳の子供を手にかけるというのは、拙者は感心できないでござるなぁ……」 「ア、アスナさん……?」 あああああああああ、なんかみんな揃って驚愕の視線を私に向けてきてるし!? 「……コ、ラァァァァッ!!! バカネギッッ!! 起ーきーなーーーさーーーーいッッ!!」 これ以上ネギが恐ろしいことを口にする前に、私はネギの首根っこを上下に激しく揺さぶって無理矢理に夢の世界から引き戻した。 数回目の揺さぶりで目を覚ましたネギは、まだ状況が分かっていない様子でしばらく周囲をキョロキョロと見回した後、私の方を見てビクリと肩を震わせた。 「あっ……アスナ……さん?」 なんだか怯えすら混じっているネギに、小さく息を吐いてから一言。 「………あのねぇ。勝手に人を夢の中に出演させるんじゃないの」 コツンと頭を叩く。 じわり、とネギの目に涙が浮かんでくる。 次の瞬間、ネギは顔をクシャクシャにして飛びついてきた。 「ふっ、ふぇぇぇぇぇ〜〜〜〜んっ! アスナさん、アスナさん、アスナさぁぁぁぁぁん!!」 なんかワンワン泣きだしたネギを抱きしめて背中をさすってやる。 目を覚ましたネギを怒ったりできなかったのは、実のところ、今の夢の内容にちょっとだけ心当たりがあったからである。 ……いつぞや服を魔法で脱がされたとき、ついカッとなって怪物さんけしかけて追いかけ回しちゃったけど、まさか夢に見るくらいのトラウマになってるとは。 少なくとも泣きやむまでは、優しくして上げようと思う。 …………それ終わったら、さっきから微妙すぎる視線で私を見ている周りのみんなの誤解を、まっ先に解かせないとなぁ。 うぅぅ、ちょっと私も泣きたくなってきた……。 |