第4話 「吸血少女接触編」





<エヴァンジェリン>



 麻帆良学園中等部校舎の屋上。

 昼休みの時刻になれば、比較的大人しい生徒が静けさを求めて食事や休憩をとりに静かな賑わいを見せる此処も、授業が行われている今の時間は、完全な静寂が守られている。

 私は、その静寂のなかで一人、空を見上げていた。

 2月に入った恩恵か、今日は風が暖かい。
 朝方から雲すら見えない晴れ渡った空。

 ………ともすれば授業の時間すら騒がしいこの中等部は、私にとってはいい加減、飽き果てた箱庭だ。

 どうせ、とある馬鹿が私にかけた“登校地獄”の呪いで、学校に来ることだけは避けられない。もう中等部で受けられる授業の内容など、飽き果てるほど繰り返し受けたというのに、だ。
 ならばせめてもの抵抗と、私は事情を知っている魔法先生や関係者の授業では、出来うる限りサボることに決めている。

 今頃は、タカミチが英語の授業の時間だ。ヤツなら、私の出席については適当に誤魔化すだろう。それぐらいの貸しはある。
 どうせ、どんなに授業に出なかったとしても、結局の所、私にはこの学園から出る術はないのだから。

 青い空が、腹立たしい。

 陽の光の輝きを一面に浴びているこの屋上にいながら、私は屋上に立てられた柵の下に作られた、わずかな影の元でしか安らぐことが出来ないのだから。

 それでも、空が見たくて屋上で眠ることを自分が選ぶのは。

 考えるのも嫌になって、私は横になり、目を閉じた。

 ・・・

 ・・

 ・

「エヴァ」
「……タカミチか。授業を抜け出してきたか……?」

 目を擦る。

 少し距離を置いて、タカミチが立っている。
 それ以上近付かなかったのは、近付けば私が警戒のために目を覚ますのを理解しているからだろう。

「いーや、授業は終わったさ。もうそろそろ昼休みに入った生徒達が此処に休みに来るだろうな」

 本格的に寝ていたか。
 陽の光の下で居眠りなどするものではないな。

 自然と、欠伸が零れる。

「それで?」

 横目で睨むと、タカミチが小さく息を吐く。

「いや、例の彼の件を、エヴァにはまだ伝えてなかったと思ってね」
「……………簡単な説明は聞いている」

 例の彼、という言い方で、見当は付く。
 私は、一昨日の深夜に相見えた、無数の触手と単眼を持つ、不気味な魔物の姿を思い出す。
 あの触手の感触まで思い出してしまい、背筋にわずかに冷たいものが走った。

「……………………嫌なことを思い出させたな?」

 もう一度、今度は強めに睨むと、タカミチは困ったように笑った。
 昔と違って、殺気を流すのにも随分と慣れたな、コイツは。

 しばらく言葉を止めて、タカミチはもう一つ息を吐くと、頭の後ろを掻きながら、とんでもないことを言ってきた。

「いや、確かエヴァはこの前の件で彼に礼を言ってなかっただろ? だったら、礼ついでにちょっと様子を見に行って来てくれないか?」
「………誰があんなヤツの所など行くか」

 本気で睨んで吐き捨てる。冗談ではない。
 あんな化け物の巣窟にこちらから出向くなどご免だ。
 例え、元は一般の生徒だったとしても、あの肉体は間違いなく魔物のものだという事実を、学園長やこの男は甘く見すぎている。

「でも、借りを作ったままだと心苦しくないか?」
「借り、だと?」
「違うかな?」

 タカミチに真顔で聞かれて、私は口を閉ざして考える。
 否定は、出来ないか。
 助けられたなどと思うつもりはないが。あの状況は私にとって久方ぶりに感じた危険だった。どんな種類の危険だったのかは、考えたくもないが。

 まぁ、いい。ここは、タカミチの提案に乗るとしよう。
 私にも、思うところがある。

「…………いいだろう。ただし」

 これだけは確認しておく。

「ヤツが魔物としての本性を現したなら、私が始末するぞ」

 後になってつまらぬ言い訳をされては敵わないからな。
 だが、タカミチはどう答えるか。
 なにしろ、私がその気になれば一方的にヤツを虐殺し、証拠を消すことも可能だ。
 つまりこれは、ヤツを殺す許可を寄越せという意味でもある。

「うーん、いいんじゃないか? …考えすぎだと思うけどなぁ」

 ……だというのに、タカミチはそれほど考える訳でもなくあっさりと答えを口にした。

「なぁッ!?……そんな簡単にゅ」

 決めていいとでも思ってるのか? と追求する暇もなく。

「それじゃ、彼によろしく。放課後に茶々丸君と一緒に行くといい」

 何か急ぎの用事でもあったのか、そのままタカミチは私を放置して、屋上から早足に降りていく。
 あまりにもあっさりとしたタカミチの答えに呆然としていた私は、つい追いかけるのを忘れてそのまま逃がしてしまった。

「……クッ、舐めおって」

 入れ替わりに昼食を手にした生徒共が屋上に上ってきて、あっという間にガキ特有の喧噪に包まれた屋上で、私は小さく悪態を付いてから屋上を去る。

 やはり、ここは陽の光の下で居眠りなどするものではない。
 陽の光の下には、ガキ共の喧噪がよほど似合いだ。






<主人公>



 ごはんですよ〜。

 バツン

 俺が触腕を限界まで伸ばして差し出した超巨大な肉の塊を、超巨大な顎が一口に噛み千切って、もしゃもしゃと咀嚼する。
 綺麗に生えそろった牙とか、普通に1メートル以上ある。一本一本が。
 人間なんて一呑みに出来そうな超絶巨大な口を持つその生物は、いわゆるドラゴンだった。
 全長はざっと見た感じでも10メートルは軽く超えてる。

 正に魔獣。
 真に恐怖の象徴。
 俺なんてこれに比べたらタダのよく動くお肉だねッ!

「ゴルルルルルルルル……」

 あ、はいはい、お代わりですね〜?

 バツン

 わーい、触手の先ちょっと食べられた〜。
 あんまり変なもの食べるとお腹壊しますよ〜?

 あと超痛いです。
 訂正、俺はゴハンじゃないですよ〜?

「……………グルルルル……」

 あ、もう満腹ですか?
 以外と小食なんですね〜。ダイエット中ですか?

 それじゃ、また次のお食事の時間に〜。

 触手をパタパタと振って見送ると、ドラゴンさんは尻尾を一度大きく振ってから、翼をはためかせて図書館島の地下深くへと飛んでいった。
 地下深くに行くほど増えてくる巨大な木の枝の中を、器用に木々の隙間を縫って飛んでいく姿は、やがて完全に消えてしまう。

 ふー、案外温厚そうなドラゴンで助かったなぁ。

 俺は、図書館島地下の大空洞の底へ消えていったドラゴンさんを見送ってから、うっかり空洞に落ちないように注意して、空洞から図書館島地下張り巡らされているシェルター風の通路の中に入った。

 先ほどドラゴンさんにあげた、巨大な骨付き肉が多数入れられている大きなボックスの蓋を閉じて、底にあるキャスターのロックを解除する。
 また次の食事の時に使うから、すぐに冷凍庫にいれとかないといけない。

 さて、ボックスを運ぼうとしたところで、クウネルさんが現れた。
 空中から溶けるように出現する姿にももう慣れっこである。

「………フフフ、無事に気に入られたようですね」

 あ、クウネルさん、ちゃんとうまくいきましたよー。

 触手の先を振って挨拶してから、ドラゴンさんが飛んでいった方を示すと、クウネルさんはにこやかに頷いてくれた。
 失敗しないかちゃんと見守っていてくれたらしい。

「ちゃんと管理者として教えておいたので、間違いはないと思いましたが。それを差し引いてもよく言うこと聞いていましたよ」

 いえいえ、頭の良い子みたいでしたし。
 ちょっと囓られましたけど。

 ……と、先ほど囓られた触腕を見せようとしたら、いつの間に尖端を囓られたはずの触腕は完全に再生していた。

 おー、俺には再生能力があったのか。知らなかった。
 でも、気合いを入れたらズリュッ!とか生えてくるとかなら分かるけど、いつの間にか生えてましたって、なんかシュールだなぁ。



 さて、俺に与えられた図書館の司書の仕事第一号が、この、図書館島地下深くの番人であるドラゴンさんへの餌やり係である。
 なんだか、いきなり司書という言葉と離れまくってる気がするけど、結構な大仕事だった。ドラゴンって大きいし。

 このドラゴンさんは、やっぱり生き物であるからには多少お腹も減るそうで、飢えないように餌であるお肉を食べさせてあげないといけない。
 今までは、クウネルさんがあげていたけど、クウネルさんはとある理由があってあまり動ける時間がないので、暇をしている俺が代わりに餌をあげ欲しいとのことだった。

 ちなみに、とある理由、というのは秘密だそうです。

 追求……しちゃダメなんだよなぁ。ホントに不思議な人だ。

 さて、このドラゴンさんは、危険な侵入者を防ぐための最後の砦なんだそうで、餌代とかも学園持ちなのだそうだ。
 その割にはクウネルさんと同じく秘密の存在だそうで、魔法使いの人っていうのはとにかく秘密とかが大好きな人種なのだろうかと思ってしまう。
 でも、それを言ったら俺の存在ももはや謎の生物以外の何者でもないわけで、ああ、俺は本当に魔法使いの世界に入っちゃったんだなぁ、という解釈も可能になるわけで。
 謎じゃなくて良いから、普通の世界がよかったなぁ。









 第一の仕事を終わらせて、クウネルさんと地下図書館を歩く。
 いや、俺はどっちかというとウネウネ床を這っているんだけど、人間としては歩いていると表記したい意地があるわけで。

 次なる仕事の説明を聞くことになった。

 ちなみに、今日一日のほとんどは、ドラゴンさんの餌やりの準備と仕事を覚えるのに使ってしまったので、本日は説明だけである。
 なんでも、ドラゴンさんに侵入者と判断されたら命がないそうで、そういう顔見せ的なものも含めて時間を掛ける必要があったのだとか。
 あと、餌をあげるポイントとか、そこまでの移動経路を憶えるのも大変でした。一瞬でワープできるっぽいクウネルさんが羨ましいです。

「さて、図書館島の司書の第二の仕事は、遭難者の救助です」

 わーい、どんどん図書館の司書の仕事から離れていきますね。

「麻帆良学園には、図書館探検部というサークルが存在しまして…」

 あー、聞いたことある。

 『図書館探検部』というのは、この図書館島の地下を調査するのが目的のサークルだったと思う。
 この図書館島の地下には、罠やら秘密の通路やらが沢山ある代わりに地下へ行くほど貴重な本があるとかで、そういう本を見てみたいという本マニアとか、むしろ罠とか秘密の通路とかが好きな冒険好きの人が集まって出来たらしい。

 図書委員の人たちが結構な確率で入っているサークルなので、図書委員をやっていた時には自然と耳にすることが多かった。
 まさか、自分がそのサークルの遭難者を救助する仕事をする羽目になるとは思いもしなかったけど。

「困ったことに、彼らのような学生が、だいたい週に1度ぐらいの頻度で地下深くまで来すぎて帰れなくなったり、トラップにかかって脱出不能になったりすることがあるんですよ」

 聞いてはいたけど、怖すぎますよねこの図書館。
 俺は学生生活の中で、一度も地下の階に降りた事なんて無かったですよ。

「フフフ…今はむしろ、貴方が怖がらせる方の立場じゃないですか」

 いや、そんなことしたくないですけど。
 こんな怖い姿で怖がらせようとしたりしたら、それこそ一生モノのトラウマを作ってしまいかねないですし。

「それも、魔物として生まれたロマンだと思いますけどねぇ……フフフ」

 なんだか怖いこと言われてしまった。
 あと魔物として生まれたわけじゃないです。元はちゃんとした人間ですよー。

「まぁ、それはともかく。遭難者の救助ばかりは、実際に遭難者が出ないと仕事もないので、実際に問題が起きたときに手伝って貰うことにしましょう」

《了解しました》

 移動しつつホワイトボードに返事を書いてみせる。
 こんな時は触手がいっぱいあるって便利だなぁと思う。
 いや、我ながらスムーズに動きすぎてちょっとコワイと思うけどね?

「さて、第三の仕事が、この地下図書の整理などなのですが……これは、基本的に整理自体を行ってませんので、それほどすることはなかったりします」

 わーい、図書の整理放棄。
 どこが図書館島の司書なんだろう。

「いえいえ、もちろん私は図書館島の司書の仕事を完璧にこなしています。ただ、図書自体が魔法で整理・防護されているので、必要ないだけですよ?」

 俺の残念そうな反応を見て、クウネルが楽しそうに解説してくれた。
 そうでしたか、失礼しました。
 むしろ司書の仕事をやりようがないのは、むしろ俺でしたか。

 ちょっと凹むなぁ。

「フフフ、気にしているのでしたら、この本で文字の勉強をしてください。この地下図書館の書物はほとんどが日本語や英語じゃなく、古典ヘブライ語や古ラテン語のような古い文字が多いですからね」

 凹んでいたら、どこからともなく出した本を五冊ほど重ねられて渡された。
 うわ、厚いし読むのが大変そうな本だ。
 結構な重量なので、落とさないように触手で大事に持とう。

「とりあえず、知識がない内は、肉体労働を主に担当して貰うということでお願いします。……気にしなくても、それだけで十分助かっていますよ」

 穏やかにクウネルさんが言ってくれたお陰か、ひどく重く感じていた渡された本の重みが、軽くなったように感じた。
 ちゃんと頼りにされてると言われると、やっぱり安心できるなぁ。

「まぁ、最初の内は、浅い階にある日本語の本などを読んで、本に対する愛着を深めるのもいいと思いますよ? ただし、一般生徒には見つからないようにしてくださいね?」

 あ、それは嬉しい。
 あの広間にある本って俺には読めないか、勉強に関するテキストばっかりだったので、娯楽として本を読んで良いのは嬉しいです。

 夜になって人が減ったらこっそり借りに行こうっと。

 ………というか、あれ?

《あの》

 恐る恐るホワイトボードをクウネルさんに見せる。

「……どうしました?」

 触手での移動を止めていきなり途方にくれている俺を見て、クウネルさんが不思議そうに足を止める。
 ホワイトボードに話の続きを書いて、そっと見せた。

《本が溶けちゃいました》

 触手から出てきた粘液で。

「……………………………………………」

 あああああ、沈黙が痛い。
 クウネルさんの目が笑ったまま固まってるのが怖いです。

「まさか、魔法でコーティングしている本を溶かしてしまうとは予想外ですね……。これで、魔法の防護服を着た魔法少女の服もドロドロに溶かして以下省略というわけですかフフフフフフフフフ」

 あああああ、すいませんすいませんッ!
 そんなアレなことはしませんから、どうか満面の笑顔で精神的に嫌すぎることを言うのは止めてくださいぃぃぃぃぃッッ!!!

 必死に謝って、なんとか図書の整理に必須になる文字についてのテキストはまた用意して貰えることになりました。

 とにもかくにも、問題の繊維を溶かす粘液というのを止めるように訓練することを約束することに。
 いえ、実際、ヨダレが出っ放しみたいなもんだから、なんとか直さないといけないとは思うのです。
 意識するとちゃんと止まるので、慣れれば可能そうだし。

 そもそも図書館の中を本を溶かす粘液をダラダラ垂らしながら怪物が歩き回るのは問題ありまくりですよね。

 またちょっと死にたくなりました。しくしく。






<エヴァンジェリン>



「………呆れたな。これがあのバケモノ一匹のために用意した部屋か」

 放課後に茶々丸と合流し、教えられた図書館島地下のバケモノの部屋へと降りると、そこは呆れるほどに快適な空間が広がっていた。

 地底図書館。

 恐らくは、以前からこの図書館島の地下に存在していた部屋なのだろうが、あんなバケモノ一匹に譲るのはいかにも勿体ない、出来すぎた部屋だった。
 いや、部屋、というのは正しくないか。
 名前の通り、この場所だけで一つの図書館と言っていい。

 広大な空間には、世界樹の根であろう巨大な木の根が縦横無尽に巡り、本棚にもなっている壁からは、幾筋もの滝がこの広間へと流れ込んでいて、それがこの広間の中に巨大な湖を作っている。
 世界樹の発光現象を利用しているらしい灯りは、まるで陽の光のように快適に部屋を照らしている。
 空気は暖かく、まるで春の木漏れ日の下のように落ち着く。

 ………だんだん腹が立ってきた。

「茶々丸、あのバケモノはどこに潜んでいる?」

 先ほどから周囲を索敵させていた茶々丸に聞くと、首を横に振った。

「熱源反応も魔力反応もありません。この部屋にはいないのかと思われます」

 フン、逃げたか?
 あるいは獲物を探しに行ったのかも知れんな。
 ホントのところは、せいぜい周囲を探検に行った程度かもしれんが、絶対にそうではないと言い切れん以上、警戒するに越したことはない。

 今のうちに、捕縛結界でも準備しておくか……?

「……む、あの書物は、魔法関係のモノか?」

 視線を巡らせた先にあった本のタイトルは、見覚えのあるものだった。
 壁代わりに並べられている本棚の中には、ほんの初級のモノだが、間違いなく魔法関係のものが多く含まれている。
 ジジイめ、まさかあのバケモノを魔法使いにでもするつもりか?

 一つを手にとってパラパラと開く。
 ラテン語版か。なんだ、片手落ちも良いところだな。
 ただの一般生徒が読めるわけも無かろう。

「あ」

 茶々丸が、不意に口を開く。

「どうした、茶々丸?」

 見ると、茶々丸はこちらを見ていた。
 いや、少し視線が上………………………か?

 茶々丸の視線を追うように、真上を見ると。

 いつの間にか、私の前の本棚の上部が横にスライドしていて。

 そこに生まれた真っ黒な穴から、まるでそこから生えてきたように、無数の触手が伸びて、ゆっくりと私の方にのし掛かってくるところだった。

 ぐにゃりと。

「□▼*∞∴★→〒◎〒※▽&#%■◆□£%%■△≠÷¢£<ッ!!?」






<主人公>



 クウネルさんに教わった秘密の抜け穴は、1メートル四方しかない石壁に囲まれた通路で、化け物の体になったことで結構大きくなってしまっている俺にはものすごく窮屈な通路だった。
 なんとか触手をずりずりと通路に入り込ませて、あとはうねうねと全身を使って中を通る。
 半端じゃないくらい狭くて目なんて開けていられないけど、そこは軟体生物の強み、結構壁に触れた触手の感触だけで移動できるモノなのだ。
 とはいえ、不便だなぁ。
 今度、頑張って別の通路を探そうかな。

 そんなことを考えている内に、やっと行き止まり。
 地底図書館への扉に辿り着いた。

 触手の感触だけで行き止まりの壁を探り、スイッチを出して扉を開く。

 ふー、解放感ー。

 俺は、狭いところに無理矢理潜り込ませていた触手を大きく開いて、久しぶりの地面へと着地した。

 むにゅ。

 ………?

「□▼*∞∴★→〒◎〒※▽&#%■◆□£%%■△≠÷¢£<ッ!!?」

 おわわわああああああああああああああああああああああッッ!?
 なんか踏んじゃった!!?

 もの凄い勢いで足元でナニカが動いている。ひえぇぇぇぇ、なんだこれ!?

 慌てて離れようとしているけど、足元のナニカも暴れてるので絡まってなかなか取れない……って、イタタタタタタタタタ、噛みついてきたしッッ!!?

 痛ッッ! 痛いって!!

 慌てて閉じていた目を開いて、周囲を見回す。
 ナニ踏んでるんだ俺!!?

 何故か目の前に茶々丸さんがいた。

「……あ、……先日は、お世話になりました」

 茶々丸さんは、挨拶と共に丁寧にお辞儀してくれた。

 思わずこちらも動きを止めて、ゆっくり頭を下げる。
 やっぱり、茶々丸さんは俺の動きをよく理解してくれているらしく、ちゃんとお辞儀してくれたことを分かってくれた。

 ところで、なんで茶々丸さんがここに?

 と疑問を抱いたところで。足元でなにか唸り声が聞こえた。

「あの、マスターが、下に……」

 何故か控えめに教えてくれる茶々丸さんの言葉に、ゆっくりと下を見ると。

 もの凄い眼光を放つ、例の凶暴な女の子がいた。
 さっき俺が我を忘れて藻掻きまくったおかげで、触手からバンバン出ちゃったらしい粘液が本日第2の働きをしてくれたらしく、服がすっかり溶けてます。
 ああああああああああ、なにやってるんだ俺の肉体!!?

 というか、女の子のそんな格好、見ちゃダメだ俺ッ!!

 なんて思ったとほぼ同時に、俺の視界いっぱいに女の子の手刀が迫ってきました。もの凄い勢いです。これは間違いなく貫通する。

 あ、死んだ。










 ・・・・・と思ったのに、あっさり再生する俺の肉体でした。









つづく