第3話 「図書館島の司書」





<タカミチ>



 学園長が決めた彼の今後の身の置き場を伝えると、彼はルーズリーフに一言、《ありがとうございます》とだけ書いて見せてくれた。
 彼なりに、自分の居場所のことは心配していたのだろう。
 パニックになったり自暴自棄になったりしないのは、正直ありがたかった。

 心配事が無くなって安心したのだろう。
 終始落ち着かない様子で宙をさまよっていた彼の触手も、今は地面に垂れてゆっくりと動いているだけだ。

 ………彼の心理を触手の動きで読めるようになっている自分に、なにかしら目眩に似た感覚を憶えたが。

 本当はここでもう少し休ませてあげたいのだが、ここは学園の校舎の中。
 もうすぐ、日が昇ってしまう。

 学園長によると、地下にはすぐに彼の居住区となる場所を用意する手筈になっているので、急いで彼を移動することになった。
 今でも人払いの結界と認識阻害の魔法を併用して、彼が一般人の目に触れないように細心の注意を払っているが、さすがに生徒達が登校してくる時間にはその手は使えない。

 移動は、すぐさま行うことになった。

 移動途中に、彼に図書館島の地下で過ごす際の注意点を幾つか話す。



1.一般人に決して存在を悟られないこと。

 これは、なにより魔法使いの原則である、『一般人に魔法の存在を公にしない』ということに関わるものなので、特に気を付けるようにお願いした。
 そうでなくても、彼の姿を一般生徒が目撃すれば、ちょっとしたパニックが起こるだろう。
 場合によっては、魔法先生の側で退治をする羽目にもなりかねない。


2.図書館島から出ないこと。

 厳密には、地下から外に出ないようにお願いした。
 これも基本的には、一般人に発見されないようにする為の措置になる。


3.できる限り人間に近い生活を心がけること

 この決まりは、彼が人間の心を忘れないようにするためのものだ。
 あまり昔とかけ離れた生活をしていると、彼がいつしか人間としての自分を見失ってしまうかも知れない。
 分かりにくいかも知れないが、それはとても危険な状態だ。



 そんな風に話すと、意外なほど彼は真剣に聞いていた。
 僕が考えている以上に、彼は真面目で、とても人間らしい反応をする。

 ……それは分かってるんだけど。

 正直、背後をヌメヌメとついてくる彼を連れて図書館島への道を歩く間、ものすごく落ち着かなかった。
 きっと、何か得体の知れないモノに夜道を追われるという悪夢を、つい思い出してしまったからだと思う。

 地下への直通エレベーターに彼を乗せるときに、感謝の印に握手をされた時は、自分でも笑っていられた自信がない。
 手の平を這い回る彼の触腕の内側の吸盤の感触が、なんだか夢にまで出てきそうな不気味さだったし。

 いや、彼には悪気はないんだ。本気で僕に感謝してたんだろう。
 ルーズリーフに感謝の言葉を書いて僕に見せてくれたし。

 でも、エレベータの扉が閉まるまで触腕を一生懸命左右に振る彼の姿は、エレベーターの扉を軋ませながら左右に開いてエイリアンが押し入ってくるアクションでSFでホラーな映画を連想させた。

 いや、彼は本当に別れを惜しんでくれていたんだろうと、理性では分かってるんだけどね。うん。
 なんだかこれもまた悪夢に見そうな光景だったけど。

 ……………眠ってないから、ちょっと疲れてるんだろうか。

 彼が地下に降りて行ったのを見送って、一つ溜息をつく。

 ふと見ると、足元にルーズリーフの紙片が一枚落ちていた。
 どうやら、先ほど彼が僕に書いていたメッセージを、うっかり落としていってしまったらしい。
 ルーズリーフに書かれているのは、妙に丸い文字で一文だけ。

《ありがとうございました》

 少し考えてから、それを綺麗に畳んでポケットに入れる。

 そうして、せめて少しでも睡眠時間をとろうと思い、僕は中等部の校舎にある仮眠室を目指すことにした。






<主人公>



 エレベーターを降りて、延々と地の底に続く螺旋階段を下りること一時間。

 あらゆる建築物でおなじみの、非常口の標識が飾られた扉を抜けると、そこは図書館島の地下最深部だった。

 さすがに魔法使いとかが存在する以上、前人未踏とまでは言えないが、少なくとも一般生徒では絶対辿り着けないレベルの、超・大秘境。

 周囲は何故か南国風味に暖かい。
 そして、ナイアガラの滝のごとく大量の水が、この広大な空間のあちこちから流れ込んでいて、部屋に満ちている白い光と相まって、奇蹟のような美しい風景を作り出している。
 大量の水の流れの底では巨大な湖が出来ていて、天井から湖までを、無数の巨大な樹の枝のようなものが繋いでいた。
 見上げた天井は、この無数の樹の枝が寄り集まって作られた巨大な天蓋に隠されていて、その奥が淡く輝いて、この巨大な空間を白く照らしている。

 確かまだ深夜の筈だし、そもそもここは地下深くで図書館だった思うのだが。
 なんだかとっても大自然。

 いや、確かに壁のあるべき部分が本棚になってるけど、滝の内側にある本棚とか完璧にアウトだと思う。
 よく見たら、半分以上湖に沈んじゃっている本棚とかもあるし、木の根から生えている本棚まである。なんか、もの凄くカオスな風景だ。

 ・・・

 それでも、この暖かい空気と、滝のごとく流れる水がぶつかる音だけが響くこの広い空間の、独特の静けさに安心して。

 俺は、その場でくたりと横になって、眠ることにした。









 足音が聞こえる。
 こちらを伺う気配。

「×××××?」

 声をかけられた、いかん、起きないと。
 あれ、なんで俺は砂浜に寝てるんだ?

 目を開ける。

 俺のすぐ目の前に、ゆったりとしたローブを身に着けた、華奢で美形な男性の方が、にこにこと微笑みながら立っていた。
 一房だけ伸ばした髪の毛を紐で結び、肩口から前に垂らしている。

 あまりに美形なので、一瞬女の人かと思ったけど、肩幅とか立ち姿を見た感じ、男の人っぽい。……男の人だよな?
 格好からして、この人も魔法使いっぽい。

「やぁ、こんにちは。図書館島、地底図書室へようこそ」

 あ、こんにちは。

 と言おうとして、俺は自分が声を出せないことを思い出した。
 えぇと、ルーズリーフルーズリーフ。

 あああ、マジックが見つからない! もしかして移動中に落としたのか!?

「フフフ、困っているようですね?」

 魔法使いの人は、結構焦っている俺の様子を、にこやかに見ていた。
 あー、なんかホントに楽しそうだなぁ。
 俺の姿を見ても全然怖がらないって、えらく度量の広い人だと思う。

 魔法使いの人は、俺が動きを止めるのを待って、おもむろに懐から一枚の棒付きの板を取り出して、俺の方に差し出してくれる。

「丁度、貴方が眠っている間少し暇だったので、このようなものを作ったのですが、使ってみてくれますか?」

 それは、持ち歩きやすいように棒が取り付けられたホワイトボードに、マジックとイレーサー(ホワイトボード消し)が紐で結ばれた、一見すると手持ち看板風の品物だった。

 触手で受け取ると、何故かやけにしっくりくる。
 おお! しかも何度も書いたり消したり出来て便利じゃないか!!

《ありがとうございます》

 マジックで書いて、魔法使いの人に見せると、嬉しそうに頷いてくれた。
 ああ、ホントにいい人だ。

「満足してくれたようでなによりです。その姿では、これからコミュニケーションに苦労すると思いますから、常に持ち歩くようにしてくださいね?」

 了解しました。
 看板だけで返事するのもなんなので、体全体を使って頷いてみた。

 触腕の2本を前にして体を支え、残り5本の脚で体を前に倒す。転がってしまわないように細い触手で動きをサポートするのもポイントだ。

 そうして、ゆっくりと頭部を前に倒して、ゆっくりと元に戻した。

「……………えぇと」

 なんだか、ちょっと微妙な顔をされてしまった。
 うう、空気が止まってしまった。

「……さて」

 コホン、と咳を一つ。
 さっきの俺の動作はなかったことにされたらしい。

「あらためて、自己紹介させて頂きますね。私の名前は」

 魔法使いの人が丁寧に喋り出す。
 えぇと、喋り出したんだけど、何故か途中で止まってしまった。

 あれ? なにこの間??

「……私の名前は、クウネル・サンダースと言います」

 にこやか〜に自己紹介してくれた。

 え、えぇと、今の間はなんなんだろう。
 なんだったのかもの凄く聞いてみたいけど、クウネルさんのにこやかな微笑みの前だと、やけに聞きづらい。
 というか斬新かつ面白い名前ですね。

「貴方の名前は学園長より聞いています。此処に降りてきた経緯も、全て」

 俺が返答に困っていると、クウネルさんは真面目な顔になって話を進めた。
 そっか、地下へ降りるときに学園長が言っていた、地下に住んでる頼れる人物っていうのは、この人なのか。

 とにかく俺は真面目に話を聞く体勢に入った。
 いや、触手を地面に下ろして顔(というか眼球しかないけど)を上げただけなんだけど。とにかく真面目な雰囲気は伝わったと思う。

「む、威嚇のポーズとは、さっそくこの図書館島地下ではどちらが強さが上かを試したいという事ですか?」

 全然真面目な雰囲気が伝わってませんでした。
 にこやかに微笑みながらも謎の黒い球体を空中にいっぱい作り出すクウネルさんの表情が怖い。怖すぎる。
 なんか黒い球体がギュインギュイン言ってますよ!?

 慌ててホワイトボードにマジックを走らせる。

《ごかいです!》

 それを見ると、クウネルさんはうんうんと頷いて黒い球体を消してくれた。
 ひー、助かったー!

「と、このように、コミュニケーションが失敗した時にも、その伝言ボードは非常に役に立つでしょう。大事にしてくださいね?」

 …………はい。

 冗談だったらしい。
 ちょっと俺の中でのクウネルさんの評価を修正したくなった。
 いや、実際にこういうこともありそうだし、勉強にはなったけど。

 もうちょっと、感情表現のジェスチャーには注意しよう。
 こう、俺の中では、親しみのもてる動きというのを心がけているんだけど、思ったより上手くいってないんだろうか。
 大きい鏡とかを見ながらそのうち研究しようと思う。









「さて、それでは次に進めましょう」

 クウネルさんが人差し指を上げて、にこやかに宣言する。
 先ほどまでいた、俺が寝ていた場所(寝るときは気付かなかったけど、湖の側の砂浜だった。…図書館の中に砂浜って)から、平坦な床のある場所に二人とも移動している。

「貴方は、自分の身体のことをどれくらい理解していますか?」

 クウネルさんの細められた瞳に見られて、俺は考える。
 そーいえば、確かに。

《あんまりわかりません》

 そう書いたホワイトボードを見せると、クウネルさんは我が意を得たりとばかりに頷いた。

「突然そんな体になってしまったのですから無理はありません。ですが、これから付き合っていかないといけないのですから、貴方はその体のことを誰よりも知らねばなりません。分かりますね?」

 それは確かに。
 同意の意味を込めてゆっくり頷く。

 俺の動きの意味をやっと理解してくれたのか、今度はクウネルさんも微妙な顔をしなかった。
 コミュニケーションが成功するって素晴らしいことだと思う。

「丁度、私もその肉体について非常に興味があるので、これから貴方の肉体の力を色々と調べてみようと思います。よろしいですか?」

 もちろん、拒否する理由はないです。

 頷いて了承すると、さっそく俺の肉体を調べる身体測定はスタートした。









「じゃ、その触腕を限界まで伸ばしてみてください」

 はーい。
 おお、伸びる伸びる。
 伸びる伸びる伸びる伸びる伸びる。
 伸びる伸びる伸びる伸びる伸びる伸びる伸びる伸び………怖ッ!!?

 ストップ!! ストップで!!!

「フフフ、20メートルぐらい伸びましたねぇ」

 なんか尖端の感覚が無くなってきたんですけど。
 というか、なんだか伸びすぎて自分で気持ち悪くなってきました。
 もう勘弁してください。

「ところで、その状態からすぐ縮められますか?」

 おわ!!?
 そう言えば、なんか伸びきったセーターみたいになってるよ、俺の腕!!

 にゅるにゅるにゅる。

 ちゃんと戻った。なんか、掃除機のコンセントみたいだなぁ。

「ふむ、戻るスピードも速い。戦闘に支障はないレベルですね」

 いえ、戦闘なんかしませんけど。









「では、この絶壁を限界まで登ってみてください」

 指定されたのは、コンクリート製の絶壁。
 どう見ても掴む場所とか無さそうだし、高さとかものごっついんですけど。

 でも、言われてみると何とかなりそうなんだよなぁ。
 足の裏に吸盤とかビッシリ付いてるし。

 恐る恐る絶壁に触手をくっつけて、ちゃんと張り付いてるのを確認してから、一本一本脚を動かして、少しづつ登っていく。

 おおお、慣れると凄い楽です。
 気分は蜘蛛人間って感じで、どんどん登れるし。

「戻ってきてくださーいー」

 おわ、いつの間にかクウネルさんが豆粒みたいに!?
 どんだけ登攀速度が速いんだよ、俺!

 さかさか降りるのもあっという間だった。
 もともと壁に張り付いたりする方が得意な生き物なのかも知れない。

「見た目はタコなんですけどねぇ」

 そーいえば、脚の中の2本の触腕は先端部に吸盤が張り付いてるし、全体で貼り付くっていうより、足先でくっつける感じだよなぁ。
 その辺がスピードの秘密なのかも知れない。

 とはいえ、壁を移動する感じはちょっと気に入ってしまった。









「それでは、次は、このマトを触手で貫いてください」

 ちょっと離れた位置に立ったクウネルさんが取りだしたのは、手で持つための棒が付いた、まん丸いマトだった。
 中心に赤いターゲットマークが付いている本格派である。

 しかし、触手で貫くって、そもそも貫いたり出来るんだろうか。

 ちょっと疑問を憶えつつ、とりあえずクウネルさんの指示に従って触腕を思いっきりマトに向ける。
 感覚的には、指先を突き出して、つーんと突っつく感じ。

 つん

 おお、成功。貫いてないけど。

「…………いえ、つっつくのではなく、貫くイメージでお願いしたいんですが」

 難しいなぁ。
 指先一つで貫く感じって、達人の拳法家みたいな感じだろうか。

 せーの、うりゃっ!!

 つーん

 おお、さっきよりは強かった! 少しマトが凹みましたよ!!

「なんというか、全然駄目ですね」

 ダメ出しを喰らってしまった。

「しかし、私がマトの周りに展開した魔法障壁を多少貫通する力はあるようですから、魔法使いへの攻撃には有効のようです」

 いやそんなこと言われても、よく分からないんですが。









「次は、ジャンプ力を計りましょう」

 いや、ちょっと待って下さい。ジャンプ力とか無理なくないですか?
 地面を這い回るのがやっとなのに。

「フフフ、なにごともチャレンジですよ?」

 チャレンジですか。
 よし、やってみよう! 確かにジャンプできたら、動きの幅は一気に広がるし! 広がってどうすると聞かれても困るけどね!?

 うをりゃああああああああああああああああッ!

 うねうねうねうねうねうねうねうねうねうねうねうねうねうねうね。

「ジャンプ力は、0、と」

 あああ、一生懸命に頑張ってるのに反応が冷たいですよクウネルさん!?









「この米に、この丸ペンで“鬱”と書いてみてください」

 いやそれ絶対無理………って、おおおお、書けた! 書けてるよ俺!!

「触手の精密動作性はS………ふむ、字が間違ってますね。減点です」

 クウネルさん滅茶苦茶目がいいですね!?









「さて、次は目から光線を出してみてください」

 出ません。









 クウネルさんによる身体測定が全て終わったのは、かれこれ数時間は過ぎた後だった。時計とか見える範囲にないから分からないけど。

「………お疲れさまでした。貴方の前向きな協力のおかげで、その肉体の能力について、だいたいのことは分かりました」

 俺もだいたい分かりました。
 なんていうか、基本的に見た通りの能力しかないですね。
 目から光線出したり分裂して増殖したりしたいわけじゃありませんけど。

「まだまだ分からないことも多そうですから、自分で分かったことがあったら随時教えてください。頑張れば、なにかしら新たな能力に目覚められるかも知れませんよ?」

 自分の肉体なのに、新たな能力に目覚めるとかちょっとあり得ないと思いたいけど、ないとは言えないのが悲しいなぁ。
 むしろ、変な能力は良いから喋れるようになりたいです。

 そんな俺の切なる願いは自分の胸にしまっておこう。
 胸とか無いけど。

 しばらくノートのようなものに俺のデータを書き込んでいたクウネルさんは、懐から凝った装飾の懐中時計を取り出すと、時間を確認してから口を開いた。

「さて、そろそろ用事があるので、お暇させていただきます」

 大分時間も経ったしなぁ。

 そういえば、俺はここでそのまま暮らしてていいのだろうか。
 とりあえず聞いておこうとホワイトボードにその質問を書いて見せたら、クウネルさんはにこやかに頷いてくれた。

「この地底図書館のエリアは、一般生徒では侵入できないエリアになっていますから、ここを住居として使ってもらって構いません」

 うわー、ここ全部、俺の住居かー。
 なんて豪華な。

「トイレにキッチン、食材も備蓄がありますし、勉強のためのテキスト等も用意してありますから、ゆっくりと休むといいでしょう」

 なんですかその豪華さは。
 図書館島地下の凄さを初めて垣間見た気がする。
 いや、常識的に考えると、魔法使いさん達が用意してるんだろうけど。
 まさか、俺のために急いで用意したっいわけじゃないよね? もしそうだったら、いくら感謝しても感謝しきれない。
 食材の備蓄とか、準備するのも簡単じゃないだろうし。

 ……って、あれ?

 そういえば、この体になって食事を摂ったことなかったけど、そもそもちゃんとした口が無いのにどうやって食べるんだろう?
 触手が生えてる部分が口っぽいんだけど、食べ物を放り込むところかって考えると、なんか違う気がするし。

 ホワイトボードに書いて、クウネルさんに聞いてみたら、

「こればかりは自分で確かめるしかありませんし、せっかく食材もあるんですから、色々試してみてはどうですか?

 と提案してくれた。

 うーん、なんだか問題が山積みだなぁ。
 時間は沢山あるっぽいし、少しづつ片付けていこうと思う。
 まずは、料理百科的な本を探そう。

「他には、なにか質問はありますか?」

 あ。

 そうそう、クウネルさんが帰る前にちゃんと聞かないと。
 俺は急いでホワイトボードに質問を書いた。

《仕事とか、なにかできることありますか?》

 それを見ると、クウネルさんは困ったような楽しそうな、微妙な表情を浮かべて口元に手をやって笑った。…笑ったんだよね?

「フフフ………貴方は、本当に真面目な人のようですね」

 あーーーー、もしかして、今の俺みたいな触手の怪物が手伝える仕事って、かなり探すのが困難なのだろうか。
 いや、実際に困難だと思うけど。
 もしかして、ここは遠慮するべき所だったかな?

 前言を撤回しようかどうか迷っていると、クウネルさんは今度はにこやかに笑いつつ、了承してくれた。
 明日から、クウネルさんがやっているという、この図書館島の司書の仕事を手伝わせてくれるとのことである。

 もともと図書委員とかやってたし、これならなんとかなりそうだ。
 でも、こんな鬼のような広大な図書館の司書とか、なにをやればいいんだ?

 そんなことを考えていると、いつの間にかクウネルさんの姿は消えていた。


 ────私は謎の司書です。決して私のことを他の人に話してはいけませんよ────


 どこからともなくクウネルさんの声が辺りに響いていた。









つづく